AI主権時代の到来。中小企業と自治体が今すぐ準備すべき「自分たちのAI」戦略
「AIは誰のものか」という問いが、いま世界中で議論されています。
これまで生成AIといえば、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiなど、海外の巨大テック企業が提供するサービスを利用するのが当たり前でした。しかし2025年から2026年にかけて、世界各国が「自国のAI」を持とうとする動きが急速に加速しています。
各国政府が数十億ドル規模の投資を行い、「ソブリンAI」と呼ばれる国産AI基盤の開発競争が本格化しています。フランス・ドイツ・インド・サウジアラビアなど各国が数十億ドル規模の投資を実施しており、AI基盤を自国で持つことが国家戦略として位置づけられるようになりました(出典:oneword「各国政府が数十億ドル投資、『ソブリンAI』技術開発競争が本格化」2025年10月9日)。
日本政府も例外ではありません。2025年12月23日、内閣府は「人工知能基本計画」を閣議決定し、内閣総理大臣を本部長とする「人工知能戦略本部」を設置。国産基盤モデルやガバメントAI「源内」に1兆円を超える投資を表明しました(出典:内閣府「人工知能基本計画 令和7年12月23日閣議決定」2025年12月23日)。
一方で、現場の実態はどうでしょうか。中小企業(従業員300人未満)のAI導入率は約5.1%と低水準にとどまっています(出典:総務省「令和5年通信利用動向調査」2023年度を基にした秋霜堂記事「中小企業のAI導入率はなぜ低い?」2025年8月5日)。自治体においても、2024年度末時点で生成AIを「導入済」としているのは都道府県で87.2%、指定都市で90.0%に達する一方、その他の市区町村では29.9%にとどまっています(出典:総務省「自治体における生成AI導入状況」2024年度末調査、2025年)。
この記事では、「AI主権」という概念が中小企業や自治体にとってなぜ重要なのかを解説し、具体的にどのような準備を始めるべきかをお伝えします。後半では、ベンダーロックインを回避しながら「組織が責任を持てる回答」を生成するための選択肢として、回答生成エンジン「Symphony Base」をご紹介します。
AIソブリンティとは何か。「AIはグローバル」から「地域ごと」の時代へ
「AIソブリンティ」や「データ主権」という言葉を耳にする機会が増えてきました。これらは一見すると国家レベルの遠い話のように感じられますが、実は中小企業や自治体の経営判断にも直結する重要な概念です。
データ主権とは、「データの保存・処理・活用が、どの国の法律・主権のもとで行われるかを決める権利」のことです(出典:ソフトバンク「データ主権とは? 経済安全保障の観点から分かりやすく解説」2025年9月2日)。
たとえば、あなたの会社が顧客情報をアメリカのクラウドサービスに保存している場合、そのデータはアメリカの法律の影響を受ける可能性があります。同様に、自治体が住民データを海外のAIサービスに入力した場合、そのデータがどのように扱われるかは、提供企業の所在国の法律に左右されます。
ソブリンAIとは、こうした懸念に対応するため、各国が「自国の法律と管理下でAIを運用できる基盤」を整備しようとする動きを指します。大和総研やMM総研などの調査機関が報じているように、欧州連合、中国、インド、そして日本を含む多くの国が、国産AIインフラへの投資を急速に拡大しています。
ここで重要なのは、「国がAIをやってくれる時代」ではなく、「どのAI・どのクラウドに、どこまで頼るのかを自分たちで決める時代」になっているという認識です。国レベルのAI主権と並行して、自治体と中小企業にも「自分たちのAI主権」を考える必要が出てきています。
日本政府の動き。ガバメントAI「源内」が目指すもの
日本政府は「人工知能基本計画」において、行政機関向けの生成AI基盤「源内」の整備を進めています。この名称は江戸時代の発明家・平賀源内に由来し、日本独自のAI活用を象徴するものとして位置づけられています。
源内の特徴は、ガバメントクラウド上で動作し、複数のLLM(大規模言語モデル)を用途に応じて使い分ける設計にあります。具体的には、Amazon Nova、Claude、OpenAI、PLaMo翻訳などを組み合わせ、行政業務の性質に応じて最適なモデルを選択できる仕組みです(出典:デジタル庁note「ガバメントAI、プロジェクト『源内』の構想紹介」2025年11月10日)。
また、法令・通達・統計などの基本データを国側で用意することで、小規模自治体が個別にデータ整備を行う負担を軽減する狙いがあります。
(詳細は弊社記事「【2026年最新】ガバメントAI『源内』とは?」をご参照ください)
自治体のシステム基盤としては、ISMAP(政府情報システム向けクラウドサービスのセキュリティ評価制度)に準拠したサービスを軸にした設計が進められています。ISMAPは国・自治体が利用するクラウドの「セキュリティ・品質の最低ライン」として機能しており、ガバメントクラウドの採用により、自治体は安全性とコスト効率を両立した基盤を利用できるようになります(出典:Canon ITソリューションズ ESET情報局「ガバメントクラウド導入で地方自治体のシステムはどう変わるか」2023年5月8日)。
中小企業・自治体が直面する3つの課題
国家レベルのAI戦略が進む一方で、現場の中小企業や自治体は具体的な課題に直面しています。
課題1: AIコストへの不安
世界的にデータセンター投資と電力需要が膨張しており、「クラウドは永遠に安い」とは言えない時代になりつつあります。Wood Mackenzieのレポートでは、日本のデータセンター需要が2034年までに電力需要増加の60%を牽引するとの試算が示されています(出典:Wood Mackenzie「日本のデータセンターブームが電力需要の60%を牽引」2025年8月26日)。
また、円安やベンダーの料金改定により、月額料金が大幅に上昇する「クラウド破産」リスクも指摘されています。実際、VMwareの価格改定では小規模基盤の企業で最大2.8倍のコスト増となった試算もあります(出典:OPTAGE「急激な円安で注目される『クラウド破産』とは?原因と対策を解説」2024年6月27日)。
課題2: ベンダーロックインへの懸念
特定のAIサービスやクラウドプロバイダーに依存すると、料金改定リスク、機能停止リスク、乗り換えコスト増大という三重苦に陥る可能性があります(出典:XIMIX「クラウドの『ベンダーロックイン』とは? 回避戦略とDX推進」2025年10月28日)。
たとえば、あるAIサービスの利用規約が変更され、これまで許可されていた使い方ができなくなるケースや、サービス自体が終了してしまうケースは現実に起こりえます。
課題3: AIガバナンスの整備不足
内閣府「AI戦略会議 中間とりまとめ」(2024年)によると、「現在の規則や法律でAIを安全に利用できる」と思う日本人は13%にとどまり、77%が「AIには規制が必要」と回答しています(出典:内閣府「AI戦略会議 中間とりまとめ」2024年)。
中小企業や自治体においても、「AIを導入したいが、ルールがないと危ない」という認識は広まっています。しかし、具体的にどのようなガイドラインを整備すべきかがわからないという声も多く聞かれます。
「ソブリン・バイ・デザイン」という設計思想
これらの課題に対応するための考え方として、「ソブリン・バイ・デザイン」という設計思想が注目されています。これは、「あとから法令対応する」のではなく、最初から「どの国・どのクラウドに何を置くか」まで含めてシステムを設計するアプローチです。
具体的には、以下のような要素を設計段階から織り込みます。
データの保存場所: 顧客データや住民データを国内のクラウドに限定するか、海外も許容するか
AIエンジンの選択: 特定のAIサービスに依存せず、必要に応じて切り替えられる構造にするか
セキュリティ基準: ISMAPなどの公的なセキュリティ評価に準拠したサービスを選ぶか
さくらインターネットやソフトバンクは「ソブリンクラウド」(国内に閉じたクラウド)を提案しており、経済安全保障の観点から注目を集めています(出典:さくらインターネット「ソブリンクラウドとは? 経済安全保障の観点で注目されるデータ主権」2025年5月13日)。
「組織が責任を持てる回答」とは何か
AIガバナンスを考える上で重要な概念の一つが、「組織が責任を持てる回答」です。
生成AIは非常に便利なツールですが、その回答が常に正確であるとは限りません。また、学習データに含まれる情報がいつのものか、どの程度信頼できるかも不明確な場合があります。
自治体が住民からの問い合わせにAIで回答する場合や、企業が顧客サポートにAIを活用する場合、「この回答は正しいのか」「誰が責任を持つのか」という問題が必ず生じます。
経済産業省は「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」において、企業に「AIポリシー」「リスク管理体制」の整備を推奨しています(出典:経済産業省「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」2022年1月28日)。
東京都サイバーセキュリティの「中小企業における生成AIの利活用とセキュリティ対策」ガイドでは、入力禁止データの明示、ログの扱い、生成物のレビュー体制を組み込むことが推奨されています(出典:東京都サイバーセキュリティ「中小企業における生成AIの利活用とセキュリティ対策:AI戦略会議の取組」2025年9月11日)。
「組織が責任を持てる回答」を実現するためには、AIが回答を生成する際の情報源を明確にし、その情報源自体を組織がコントロールできる状態にしておく必要があります。さらに、AIがどのような根拠に基づいて回答を生成したのかを事後的に検証できる仕組みも重要です。
ケーススタディ: 地方キャンプ場でのAI活用事例
長野県信濃町にある「やすらぎの森オートキャンプ場」では、生成AIを活用した顧客対応の仕組みを導入しています。
キャンプ場の運営では、予約方法、施設の使い方、周辺の観光情報など、似たような質問が繰り返し寄せられます。従来は電話やメールで一件一件対応していましたが、これをAIチャットボットで自動化することで、スタッフの業務負担を軽減しています。
このケースで重要なのは、AIが回答する際の情報源が「キャンプ場が用意したFAQや利用案内」に限定されている点です。一般的な生成AIサービスをそのまま使うと、インターネット上の不正確な情報や古い情報を回答してしまうリスクがあります。しかし、組織が管理するデータを情報源として指定することで、「組織が責任を持てる回答」を生成できるようになります。
回答生成エンジン「Symphony Base」という選択肢
ここまで述べてきた「AI主権」「ベンダーロックイン回避」「組織が責任を持てる回答」という課題に対応するための選択肢の一つとして、回答生成エンジン「Symphony Base」をご紹介します。
Symphony Baseは、信濃ロボティクスイノベーションズ合同会社が開発・提供するRAG(Retrieval-Augmented Generation)ベースの回答生成システムです。
特徴1: 複数のAIエンジンに対応
Symphony Baseは、特定のAIサービスに依存しない設計を採用しています。OpenAI、Claude、国産LLMなど、複数のAIエンジンを用途に応じて切り替えることができます。これにより、特定ベンダーの料金改定やサービス変更の影響を最小限に抑えられます。
特徴2: 多様なデータソースに対応
CSV、sitemap.xml、PDFドキュメント、Salesforce、Airtableなど、組織がすでに持っているデータソースをそのまま活用できます。新たなシステム構築やデータ移行の手間を最小限に抑えながら、「組織が管理するデータに基づいた回答」を生成できます。
特徴3: 完全な監査ログによる透明性の確保
Symphony Baseの大きな特徴は、全ての生成情報(質問に対する回答)に対して、RAGが検索した根拠記事の候補全てと回答文などの監査ログが全て残る点です。これにより、「AIがなぜこの回答を生成したのか」を事後的に検証することが可能になります。組織はSymphony Baseの動作に対して透明性と主導権を持った運用ができ、AIガバナンスの観点からも安心して導入できます。
特徴4: 多様な接点で活用可能
Webチャットボット、メール問い合わせ対応、LINE連携、サービスロボットなど、さまざまな顧客接点で同じナレッジベースを活用できます。
特徴5: 国産サービスとしての安心感
Symphony Baseは日本国内で開発・運営されており、日本語対応や国内法制度への対応において安心感があります。
実際の導入事例として、長野県信濃町のキャンプ場や信濃町役場のWebサイトで活用されています。
詳細な機能やプランについては、Symphony Base公式サイトをご覧ください。
中小企業・自治体が今すぐ始められる3つのステップ
最後に、AI主権時代に向けて今すぐ始められる具体的なステップをお伝えします。
ステップ1: 現状のデータ資産を棚卸しする(目安: 1〜2週間)
まずは、自組織が持っているデータ資産を整理することから始めましょう。Webサイトの情報、FAQ、マニュアル、過去の問い合わせ履歴など、AIに学習させられる可能性のあるデータを洗い出します。
チェックポイント: ・Webサイトに掲載している情報は最新の状態か ・よくある質問(FAQ)は整理されているか ・業務マニュアルはデジタル化されているか ・過去の問い合わせ履歴は蓄積されているか
ステップ2: AIガイドラインを策定する(目安: 2〜4週間)
「どのような情報をAIに入力してよいか」「AIの回答をどのようにチェックするか」など、基本的なルールを文書化します。東京都やNTT東日本が公開しているガイドラインを参考にすると、自組織向けのガイドライン策定がスムーズに進みます。
チェックポイント: ・AIに入力してはいけない情報(個人情報、機密情報など)を明確にしたか ・AIの回答を誰がレビューするか決めたか ・AIの利用ログをどのように管理するか決めたか ・問題発生時の対応フローを定めたか
ステップ3: 小さく試してみる(目安: 1〜3ヶ月)
いきなり大規模なシステム導入を目指すのではなく、特定の業務(たとえば、よくある問い合わせへの回答生成)から小さく始めることをお勧めします。効果を測定しながら、徐々に活用範囲を広げていくアプローチが、失敗リスクを最小限に抑えます。
チェックポイント: ・対象とする業務を1つに絞れているか ・成功の基準(KPI)を事前に定めたか ・3ヶ月後の振り返りタイミングを設定したか ・次のステップへの拡大判断基準を決めたか
まとめ
AIソブリンティは「国家レベルの遠い話」ではなく、「自分たちのデータと住民・顧客をどう守りながらAIを使うか」という足元の話です。
国がガバメントAI「源内」を整備する一方で、中小企業や自治体も「自分たちのAI主権」を考える時期に来ています。特定のAIサービスやクラウドに依存しすぎないこと、組織が責任を持てる回答を生成できる仕組みを整えること、そのための第一歩としてデータ整理とガイドライン策定を始めることが重要です。
Symphony Baseは、こうした課題に対応するための選択肢の一つです。複数のAIエンジンに対応し、組織が管理するデータを情報源として活用でき、全ての回答に対する監査ログが残る仕組みにより、透明性と主導権を持ったAI運用を実現できます。
「まずは既存のデータだけで試作してみたい」「自社に合ったAI活用の方法を相談したい」という方は、お気軽にお問い合わせください。
※この記事は、信濃ロボティクスイノベーションズ合同会社の開発するマルチAIアシスタント「secondbrain」を利用して執筆しています。
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