AI導入に成功する中小企業の経営者に共通する”ある能力”とは?技術力より重要な「SQ」の正体
「うちもそろそろAIを導入しないと」
そう考えている中小企業の経営者は少なくありません。しかし、同じようなAIツールを導入しても、ある会社では業務効率が劇的に改善し、別の会社では「結局、誰も使わなくなった」という結果に終わることがあります。
この違いは、どこから生まれるのでしょうか。
最新の調査研究が示す答えは、多くの経営者にとって意外なものかもしれません。AI導入の成否を分けるのは、最新技術への理解度でも、IT人材の有無でも、投資額の大きさでもありません。
経営者自身の「ある能力」が、成功と失敗を決定づけているのです。
本記事では、世界中の調査データと日本の中小企業の成功事例から、AI導入を成功に導く経営者の共通点を明らかにします。
なぜ「技術」ではなく「人」が成功を左右するのか
衝撃的なデータ:AI導入プロジェクトの7割以上が失敗している
まず、厳しい現実を直視しましょう。
Boston Consulting Group(BCG)の2024年調査によると、AIを導入した企業のうち、目標を達成し持続的な成果を上げているのはわずか26%に過ぎません。残りの74%は、期待した効果を得られていないのです。(出典:BCG「AI Adoption in 2024」2024年10月24日)
さらに、Gartnerの調査によると、85%のAI・機械学習プロジェクトが期待値を提供できないと報告されています。その主要因は技術的な問題ではなく、「組織的・文化的課題」です。(出典:VentureBeat「Why 85 percent of machine learning projects fail」経由)
では、成功している26%の企業は何が違うのでしょうか。
成功企業に共通する「見えない要因」
McKinseyの2024年調査は、興味深い事実を明らかにしています。
AI高業績企業は、シニアリーダーがAIイニシアチブに対して強い当事者意識とコミットメントを示す確率が、他社の3倍高い(出典:McKinsey「The state of AI」2024年)
また、Infosys & MIT Technology Review Insightsの2025年12月発表の調査では、さらに具体的な数値が示されています。
「心理的安全性がAIイニシアチブの成功に直接影響する」と回答したビジネスリーダーは83%(出典:Infosys & MIT Technology Review Insights「Creating Psychological Safety in the AI Era」2025年12月)
つまり、AI導入の成否を分けているのは、技術やツールではなく、リーダーシップと組織文化なのです。
成功する経営者が持つ「SQ(社会的知性)」とは
EQの次に注目される「もう一つの知性」
「EQ(心の知能指数)」という言葉は、多くの経営者がご存知でしょう。しかし、EQの提唱者であるダニエル・ゴールマン氏が2007年に発表した「もう一つの知性」については、まだあまり知られていません。
それがSQ(Social Intelligence Quotient:社会的知性)です。
SQとは、「他者と関わるときに発揮される社会性や対人能力」を指します。EQが「自分の感情を理解し、管理する能力」であるのに対し、SQは「その理解を組織内での行動につなげる能力」です。
(出典:PHP人材開発「社会的知性(SQ)とは?」2023年)
SQを構成する2つの要素と6つの能力
SQは、大きく2つの要素から構成されています。
- 社会的意識 相手の言葉や態度から、感情・意図・思考を汲み取る能力です。表面的な言葉だけでなく、その背後にある本当の気持ちを理解する力とも言えます。
- 社会的才覚 良好な人間関係を構築するために、適切な行動がとれる能力です。理解したことを、実際の行動に移す力です。
これらは、さらに6つの具体的な能力に分解できます。
能力 | 内容 | AI導入での発揮場面 |
共感力 | 相手の気持ちを汲み、感情に寄り添う力 | 現場の不安や抵抗を理解する |
組織理解 | 組織の理念やビジョンを重んじ、役割を深く理解する力 | AI導入の目的を全社的視点で捉える |
ビジョニング | 目指す状態を自らの言葉で落とし込む力 | 「なぜAIを入れるのか」を語れる |
影響力 | 周囲に働きかけ、前向きな行動を喚起する力 | 従業員を巻き込み、推進力を生む |
啓発力 | 自己啓発に努め、人間的成長を目指す力 | 自らもAIを学び、使ってみせる |
チーム達成力 | 相乗効果をもたらし、チームで目標を達成する力 | 部門を超えた協働を実現する |
(出典:PHP人材開発「社会的知性(SQ)とは?」2023年)
なぜSQがEQより業績に影響するのか
ここで注目すべき研究結果があります。
ゴールマン氏とリチャード・ボヤツィス氏がHarvard Business Reviewに発表した研究では、全米大手銀行のエグゼクティブを対象に調査を実施しました。
その結果、SQコンピテンシーのレベルが年次業績評価を予測する力は、EQの自己認識・自己管理能力よりも強力であることが判明しました。(出典:Goleman, D., & Boyatzis, R.「Social Intelligence and the Biology of Leadership」Harvard Business Review, 2008年9月)
つまり、自分の感情をコントロールできるだけでは不十分で、その能力を組織全体に波及させる力が、実際の業績を左右するのです。
SQが高いリーダーはAI導入をどう成功させているのか
共感力:現場の不安を理解し、抵抗を和らげる
AI導入において、最大の障壁の一つが「従業員の抵抗」です。
複数の調査によると、26〜54%の従業員がAIによる雇用喪失を懸念しており、訓練不足も主要な抵抗要因として報告されています。(出典:ACAS「1 in 4 workers worry that AI will lead to job losses」2024年)
SQの高いリーダーは、こうした不安を頭で理解するだけでなく、心で感じ取ることができます。
Catalyst社の2021年調査では、共感力の高いリーダーの下で働く従業員の76%が「高度にエンゲージしている」と回答しました。一方、共感力の低いリーダーの下では、わずか32%でした。(出典:Catalyst「The Power of Empathy in Times of Crisis and Beyond」2021年)
日本の成功事例:西機電装株式会社(愛媛県、従業員53名)
制御盤設計・製作を手がける西機電装では、生産管理システムの導入が一度大失敗に終わりました。
その後、同社が取った方法は「心理的抵抗」と「物理的抵抗」を分けて対処することでした。
心理的抵抗への対応として、まずは弁当発注アプリや体温記録アプリなど、全社員が使う簡単なアプリから始め、小さな成功体験を積み重ねました。
物理的抵抗への対応としては、キーボード操作が苦手な現場作業員のために、ICカードやQRコードを読み取るだけでシステムにアクセスできるIoTデバイスを自社開発しました。
これらの取り組みにより、社員から「こういうアプリを作ったらよいのではないか」というアイデアが自発的に出てくるようになりました。(出典:経済産業省「中堅・中小企業等におけるDX取組事例集」DXセレクション2022)
ビジョニング:「なぜAIを入れるのか」を自分の言葉で語れる
SQの高いリーダーは、AI導入の目的を専門用語ではなく、自分の言葉で語ることができます。
日本の成功事例:株式会社リョーワ(福岡県、従業員24名)
油圧メンテナンス事業を営むリョーワの田中裕弓社長は、「祖業の油圧メンテナンス事業を守るために、油圧の修理屋からAI企業になるんだ」と明確なビジョンを掲げました。
社長は従業員に対し、「油圧メンテナンス事業が赤字になっても、それを支える新たな事業を収益の柱に据え、油圧屋の気概をもって全力で取り組んでいく」というメッセージを繰り返し伝え続けました。
この継続的なコミュニケーションにより、現時点では収益性が低い新規事業への投資継続に、従業員の理解を得ることができました。(出典:JETRO「油圧からAI外観検査へ、高度外国人材が導くDX」2024年3月)
影響力:周囲を巻き込み、変革の推進力を生む
International Journal of Innovative Research and Scientific Studies(2023年)の研究では、変革型リーダーシップとAI導入レベルの間に有意な正の相関(r = 0.57, p < 0.01)が確認されています。(出典:International Journal of Innovative Research and Scientific Studies「Leading Change in the AI Era」Volume 01 Issue 04, 2023年)
日本の成功事例:株式会社NISSYO(東京都、従業員約210名)
変圧器製造を手がけるNISSYOの久保寛一社長は、「Change(DX) or Die(変わらないと無くなる)」「Fast eats Slow(早いものが、遅いものに勝つ)」という標語を全社で共有しました。
さらに、これまで社長の頭の中にあった経営ビジョンやビジネスモデルを文書化し公表することで、社員にも取引先にも改めて周知。毎年実施する「経営計画発表会」でDX戦略や目標値を明確にし、全社的な推進力を生み出しています。
その結果、20年で売上を10倍にした「ありえない町工場」として知られるまでになりました。(出典:東京カイシャハッケン伝「株式会社NISSYO」)
中小企業だからこそSQが活きる理由
組織規模の小ささが強みになる
大企業では、経営者のリーダーシップが現場に届くまでに何層もの管理職を経由します。しかし中小企業では、経営者と現場の距離が近いため、リーダーのSQが直接的に組織全体に波及します。
商工総合研究所の2019年調査(2023年7月公開)によると、従業員規模が小さいほど以下の項目で肯定的な結果が得られています。
- 「企業の理念・戦略・事業内容を従業員と共有できている」
- 「担当業務の意義や重要性を理解している」
- 「従業員同士がお互いに支援しあっている」
- 「仕事の遂行における人間関係が良好である」
具体的には、従業員20人以下の企業では「働きやすさ満足」が57.0%、「人間関係良好」が61.3%であるのに対し、従業員301〜1,000人の企業ではそれぞれ38.8%、56.7%と低下しています。
(出典:商工総合研究所「中小企業の組織運営に関する調査」2019年調査・2023年7月公開)
つまり、中小企業は経営者のSQがダイレクトに業績に反映されやすい環境にあるのです。
SQは生まれ持った才能ではない
ここで重要なのは、SQは生まれ持った才能ではなく、意識的な努力と練習で高められるという点です。
ゴールマン氏の研究チームは、脳の可塑性(経験によって変化する性質)に着目し、SQを構成する神経回路が訓練によって強化されることを示しています。(出典:Goleman, D., & Boyatzis, R.「Social Intelligence and the Biology of Leadership」Harvard Business Review, 2008年9月)
日本の優良中小企業に共通する特徴
百五総合研究所が2005年に実施した日本の中小企業約4,000社を対象とした調査では、優良企業は「人・組織のマネジメント」への関心が75.0%と突出して高いことが明らかになりました。
全体では売上拡大が最大の関心事でしたが、優良企業は組織運営を最優先していたのです。また、優良企業の経営者には以下の特徴が見られました。
- 早朝出社の習慣
- 読書習慣
- 決断力
- 人を引っ張る能力
(出典:百五総合研究所「中小企業経営者の実態調査」2005年11月)
これらはまさに、SQの構成要素である「影響力」「啓発力」「ビジョニング」と重なります。
まとめ:AI導入成功の鍵は「技術」ではなく「あなた自身」
本記事で見てきたように、AI導入の成否を分けるのは、最新技術への理解度やIT人材の有無ではありません。
経営者自身のSQ(社会的知性)が、成功と失敗を決定づけているのです。
具体的には、以下の3つの能力が特に重要です。
- 共感力:現場の不安や抵抗を理解し、寄り添う力
- ビジョニング:「なぜAIを入れるのか」を自分の言葉で語れる力
- 影響力:周囲を巻き込み、前向きな行動を喚起する力
そして朗報があります。SQは生まれ持った才能ではなく、意識的な努力と練習で高められる能力です。
AI導入を検討されている経営者の皆様には、まず「自社の従業員は何を不安に思っているか」「自分はAI導入の目的を自分の言葉で語れるか」を振り返っていただければと思います。
次回の記事では、「AI導入を決断できない経営者の心理と、決断を後押しする3つのポイント」をお届けします。多くの経営者が抱える「分かっているけど踏み出せない」という心理的ハードルの正体と、その乗り越え方を解説します。
AI導入推進のご相談はマーキュリーへ
マーキュリープロジェクトオフィスは、「IQよりEQ」を経営哲学に掲げ、20年以上にわたり100社を超えるクライアントと3,000件以上のプロジェクトを実現してきました。
AI導入は、技術選びではなくパートナー選びです。御社の課題を理解し、従業員の皆様と一緒に変革を進める伴走型の支援を行っています。
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※この記事は、信濃ロボティクスイノベーションズ合同会社の開発するマルチAIアシスタント「secondbrain」を利用して執筆しています。




