AI2026年問題とは?中小企業と地方自治体が今すぐ始めるべきAI活用戦略
※本記事のデータは2025年12月時点の情報に基づいています。補助金制度については2025年度版の情報を掲載していますので、申請前に必ず各制度の公式サイトで最新情報をご確認ください。
「AI2026年問題」という言葉をご存知でしょうか。
一般的には「AIの学習に使えるデータが枯渇する」という技術的な問題として語られることが多いですが、日本の中小企業と地方自治体にとっての本当の問題は別のところにあります。
それは「既に始まっている競争格差の加速」と「拡大するデジタルデバイド」という二重苦です。
大企業がAI活用を急速に進める中、中小企業の導入率はわずか5%前後。この格差は2026年以降、さらに拡大することが予想されています。加えて、2026年8月にはEU AI法の大部分の規定が本格適用開始となり、海外取引のある企業は新たな規制対応を迫られます。
本記事では、中小企業の経営者や地方自治体の担当者の方々に向けて、AI2026年問題の実態と、今すぐ始められる具体的なアクションをお伝えします。
中小企業のAI導入率は大企業との間に5倍〜15倍の格差
まず、日本の中小企業におけるAI導入の現状を見てみましょう。
総務省「令和7年版(2025年版)情報通信白書」および複数の民間調査を総合すると、企業規模別のAI導入率には大きな格差があることがわかります。
- 大企業(従業員300人以上):30%前後
- 中堅企業(50〜299人):10%前後
- 小規模企業(50人未満):5%前後
調査によって5倍〜15倍程度のばらつきがありますが、大企業と小規模企業の間に大きな格差が存在していることは、どの調査でも一貫しています。
(出典:総務省「令和7年版情報通信白書」)
複数調査で見る中小企業のAI導入実態
複数の調査結果を並べてみると、AI導入率の全体像がより明確になります。
東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX推進状況調査」(2024年)
- 導入済み:11.7%
- 検討中:33.5%
(出典:東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX推進状況調査」2024年)
帝国データバンク「生成AI活用に関する企業アンケート」(2024年7月、約4,700社対象)
- 生成AIを活用している企業:17.3%
(出典:帝国データバンク「生成AI活用に関する企業アンケート」2024年7月)
株式会社サンロフト「中小企業AI導入実態調査」(2025年7月、静岡県111社対象)
- AI導入済み:42.3%
(出典:株式会社サンロフト調査、2025年7月)
※サンロフト調査は静岡県内の限定調査であり、全国平均とは異なる可能性があります。
調査によって数値にばらつきがあるのは、「AIの定義」と「対象企業の層」が異なるためです。サンロフト調査のように比較的高い数値が出ている調査では、「ChatGPTなどの生成AIを業務で使ったことがある」という広い定義を採用しています。
「AIを導入している」の実態はChatGPTを使っているだけ
では、AI導入企業は具体的に何を使っているのでしょうか。
サンロフト調査(2025年7月、静岡県111社対象)によると、導入されているAIの内訳は以下の通りです。
- 生成AI(ChatGPT、Claude、Geminiなど):95.7%
- 議事録作成AI:46.8%
- データ分析AI:29.8%
- 高度な予測・自動化AI:10%以下
つまり、ほとんどの中小企業は「ChatGPTを使っているだけ」の状態です。本当の意味でのAI活用、例えば業務の自動化や需要予測、品質管理への応用などは、ほとんど進んでいません。
これは悪いことではありません。むしろ、ChatGPTのような生成AIから始めることは、AI活用の第一歩として非常に合理的です。問題は、そこから先に進めていない企業が多いという点です。
AI導入の効果は「期待通り」が87%、「期待以上」は13%のみ
AI導入の効果についても、現実的なデータを見ておきましょう。
サンロフト調査によると、AI導入企業の94%が「何らかの効果を実感」しています。ただし、「期待以上の成果が出た」と回答した企業は13%にとどまります。
具体的な効果としては以下が報告されています。
- 平均業務時間短縮:月3〜10時間
- 製造業の品質管理AI導入:年間1,200万円のコスト削減
- 経理業務への生成AI導入:月20時間の業務削減
「劇的な効果」というよりは「着実な改善」という表現が適切でしょう。逆に言えば、過度な期待をせず、地道に活用を進めることが成功の鍵となります。
「用途がない」が導入しない最大の理由
AI導入が進まない理由についても、興味深いデータがあります。
東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX推進状況調査」(2024年)および帝国データバンク調査(2024年7月)によると、導入しない理由の上位は以下の通りです。
- 用途・シーンがない(最多)
- コストが高い
- 効果が不透明
- IT人材がいない(54.1%)
- データが未整備
- セキュリティ懸念
最も多い回答が「用途・シーンがない」という点は重要です。
これは、AIツールそのものの問題ではなく、「自社の業務のどこにAIを適用できるか分からない」という課題を示しています。つまり、具体的な活用事例を知ることが、導入の最大の障壁を取り除く可能性があるということです。
中小企業のAI導入コストの現実
AI導入にかかるコストについても、現実的な数字を把握しておきましょう。
各種調査を総合すると、以下のような目安があります。
- クラウド型SaaS(ChatGPT Team、Microsoft 365 Copilotなど):月額数万円〜
- パッケージ型AIツール:数十万〜数百万円
- カスタム開発:100万円〜3,000万円超
- 小規模企業の初年度投資目安:50万〜150万円
多くの中小企業にとって現実的なのは、月額数万円のクラウド型SaaSから始め、効果を確認しながら段階的に投資を拡大するアプローチです。
後述する補助金を活用すれば、初期コストを大幅に抑えることも可能です。
地方自治体のAI導入状況:「導入50%」の内実
次に、地方自治体のAI導入状況を見てみましょう。
総務省「自治体におけるAI・RPA活用に関する調査」(2022年度)によると、AI導入率は以下の通りです。
- 都道府県・指定都市:100%(2021年度時点)
- その他市区町村:45%(2022年)→ 約50%(2025年度推計)
- 人口カバー率:約85%
(出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用に関する調査」2022年度)
一見すると、自治体のAI導入は進んでいるように見えます。しかし、導入されているAIの内訳を見ると、実態は異なります。
導入されているのは主に以下のような機能です。
- 音声認識(議事録作成など)
- 文字認識(OCR)
- チャットボット(住民問い合わせ対応)
一方、「予測」「最適化」「自動意思決定」といった高度なAI活用は10%以下にとどまっています。
また、人口カバー率85%ということは、逆に言えば15%の人口がAI非導入自治体に住んでいることになります。この「デジタルデバイド」は、地域間格差をさらに拡大させる要因となりえます。
自治体がAI導入で直面する8つの課題
日本総合研究所「生成AIの自治体での活用」(2023年11月)などの調査によると、自治体がAI導入で直面する課題は以下の8つに整理できます。
(出典:日本総合研究所「生成AIの自治体での活用」2023年11月)
- 人材不足とスキルギャップ 民間との給与格差でIT人材が流出。職員のAIリテラシー教育も不足しており、人事異動で知識が散逸するという課題もあります。
- 財政的制約 地方交付税削減で自由に使える予算が限定的。議会承認プロセスに時間がかかり、ランニングコストの予算化も困難です。
- データの質と量 レガシーシステムに眠るデータが活用できない状態。個人情報保護の制限もあり、データの標準化も進んでいません。
- 住民の理解と不安 高齢住民のAIへの抵抗感、「AIが仕事を奪う」という不安、プライバシー懸念への対応が必要です。
- 既存システムとの連携 レガシーシステムとの統合が困難。ベンダーロックインの問題もあり、統合コストが膨大になるケースがあります。
- セキュリティとプライバシー 個人情報・機密情報の保護は必須。AI利用時の責任体制が曖昧なケースも多く、外部AIサービスへの情報入力を禁止する傾向もあります。
- 継続的な運用と改善体制 導入後の運用・改善体制が未整備。定期的な評価・検証も不十分な自治体が多いです。
- 官民連携 民間企業や大学との協力体制が十分でなく、情報共有・意見交換の場も不足しています。
先進自治体の事例:宮崎県都城市のRAG活用カスタム生成AI
課題が山積する中でも、先進的な取り組みを進める自治体があります。
宮崎県都城市では、RAG(検索拡張生成)を活用したカスタム生成AIを導入しています。市のオープンデータと庁内ナレッジを学習させることで、職員向けの業務支援に活用するとともに、将来的な市民サービスへの展開も視野に入れています。
(参考:都城市AI活用事例)
この事例のポイントは、汎用の生成AIをそのまま使うのではなく、自治体固有のデータと組み合わせることで、実用性の高いシステムを構築している点です。
私たちマーキュリープロジェクトオフィスでも、「Symphony Base」という回答生成エンジンを開発し、長野県信濃町役場のWebサイトなどで同様の取り組みを支援しています。
(参考:信濃ロボティクスイノベーションズ合同会社「Symphony Base」詳細ページ )
EU AI法が日本の中小企業に与える影響
AI2026年問題のもう一つの側面が、EU AI法の本格適用です。
EU AI法は、2026年8月2日から大部分の規定が本格適用開始となります(完全施行は2027年8月2日)。AIをリスクベースで4段階に分類し、それぞれに異なる規制を課します。
- 禁止AI 社会スコアリング、リアルタイム顔認証(治安維持目的)など
- 高リスクAI 雇用・採用、教育、法執行、重要インフラなど
- 限定的リスクAI チャットボット、推薦システムなど
- 極小リスクAI 大多数のAI
違反した場合の罰金は、最大で世界売上総額の7%と非常に重いです。ただし、中小企業向けには軽減措置が設けられています。
(参考:ビジネスロイヤーズ「EU AI法の概要」)
「EUは関係ない」と思っている企業の多くが実は対象
「うちはEUと取引がないから関係ない」と思われる方も多いかもしれません。しかし、以下のいずれかに該当する場合、EU AI法の適用対象となる可能性があります。
シナリオ1:自社サイト経由でEU顧客にAIサービスを提供している場合 日本語サイトであっても、EU在住者がアクセスしてAI機能を利用できる状態であれば、対象となる可能性があります。
シナリオ2:EU企業向けにAI組み込み製品を輸出している場合 製造業で海外輸出を行っている場合、AIを組み込んだ製品がEU市場に流通していれば対象です。
シナリオ3:EU企業と共同開発やデータ共有を行っている場合 サプライチェーンの一部としてEU企業と関わっている場合も注意が必要です。
特にBtoB製造業の中小企業は、取引先の大企業がEUとビジネスを行っている場合、間接的に影響を受ける可能性があります。
中小企業向けのEU AI法支援措置
EU AI法には、中小企業向けの支援措置も設けられています。
規制サンドボックス 無料でAIシステムのテスト環境を利用できます。
手数料の比例的設定 企業規模に応じてコンプライアンスコストが軽減されます。
簡素化文書フォーム 技術文書の作成が簡潔にできるテンプレートが提供されます。
専用コミュニケーションチャネル 中小企業向けの相談窓口が設けられています。
活用できる補助金・支援制度一覧(2025年度版)
AI導入を検討する中小企業が活用できる補助金・支援制度をまとめました。
※以下は2025年度版の情報です。2026年度の最新情報は各制度の公式サイトでご確認ください。
IT導入補助金2025
- 補助上限:最大450万円
- 補助率:通常1/2、インボイス枠等で優遇あり
- 対象:ITツール(AI含む)の導入
- 申請:認定支援機関(商工会等)経由
中小企業省力化投資補助金
- 補助上限:最大8,000万円
- 補助率:1/2〜2/3
- 対象:AI・ロボット・センサー導入による労働生産性向上
(出典:経済産業省「中小企業省力化投資補助金」公式サイト)
ものづくり補助金
- 補助上限:最大2,500万円
- 補助率:中小企業2/3
- 対象:AI検査システムなど製造業向け
(出典:全国中小企業団体中央会「ものづくり補助金」公式サイト)
新事業進出補助金
- 補助上限:最大9,000万円
- 補助率:中小企業2/3
- 対象:AI活用による新事業・既存事業革新
人材開発支援助成金
- 補助:最大75%(中小企業)
- 対象:従業員向けAI研修費用
(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」公式サイト)
AI活用融資(日本政策金融公庫)
- 融資上限:最大7.2億円
- 特徴:利率優遇あり
東京都独自制度(一例)
- 先端テクノロジー活用推進助成事業:上限1,500万円、助成率2/3
- スマートものづくり応援隊事業:製造業向けハンズオン支援
他の都道府県・市区町村でも独自の支援制度を設けているケースがあります。まずは地元の商工会議所や産業振興センターに相談することをお勧めします。
中小企業向け:2026年までのロードマップ
最後に、中小企業が2026年までに取り組むべきアクションを時系列でまとめました。
2026年1月〜3月(今すぐ始めること)
- 経営者自身がChatGPT等を業務で使ってみる AIの可能性と限界を「体感」することが最も重要です。まずは日報の要約、メール文案の作成、競合調査など、身近な業務で試してみてください。
- 社内のAI利用ポリシー(簡易版)を作成する 「顧客情報や機密情報は入力しない」「出力結果は必ず人間が確認する」など、最低限のルールを定めましょう。
- 1〜2業務で小さなPoC(概念実証)を実施する 全社導入を目指すのではなく、まず1つの部署、1つの業務で実験的に導入し、効果を検証します。
- 自社のEU関連ビジネスの有無を棚卸しする 直接取引だけでなく、取引先を通じた間接的な関係も含めて確認しましょう。
2026年4月〜6月
- AI活用の「重点領域」を3つに絞る 人手不足が深刻な業務、繰り返し作業が多い業務、データが蓄積されている業務など、効果が出やすい領域を選定します。
- データの整理を行う 最低限、CSV・Excel出力が可能な状態にしておくことで、将来のAI活用の幅が広がります。
- 社内キーパーソン(AI推進担当)を決める 専任である必要はありません。ベンダーとの窓口役を担い、社内のAI活用を推進する旗振り役です。
- EU AI法の影響の有無を簡易判定する 該当する可能性がある場合は、専門家への相談を検討します。
2026年7月〜12月
- 成功したAI活用を標準業務として定着させる PoCで効果が確認できた取り組みを、正式な業務フローに組み込みます。
- AIガバナンス文書を整備する AI台帳(どのAIをどこで使っているか)、責任範囲の明確化など、組織としての管理体制を整えます。
- ベンダー・パートナーの規制対応状況を確認する 特にEU市場と関係がある場合、利用しているAIサービスの規制対応状況を確認しましょう。
- 社員向けAIリテラシー教育を実施する 人材開発支援助成金を活用すれば、研修費用の最大75%が補助されます。
地方自治体向け:2026年までのロードマップ
2026年1月〜2月
- 庁内の全AI導入状況を棚卸しする 各部署で個別に導入しているツールも含めて、全体像を把握します。
- 現在のAI利用ポリシーを見直す 生成AI時代に対応したガイドラインへの更新を検討します。
- EU AI法の自治体への適用可能性を確認する 海外との連携事業がある場合は特に注意が必要です。
- 住民向けAI説明会をスケジュールする AIへの不安を払拭し、理解を深めてもらうための機会を設けます。
2026年3月〜6月
- ガバナンスポリシー策定を開始する AI利用の判断基準、責任体制、評価方法などを明文化します。
- 職員向けAIリテラシー研修計画を作成する 全職員を対象とした基礎研修と、推進担当者向けの専門研修を分けて計画します。
- 次年度以降のAI投資予算をまとめる 補助金活用の可能性も含めて、財政課と調整を進めます。
- 民間企業・大学との連携可能性を調査する 地元のIT企業、大学の研究室など、連携パートナーの候補を探ります。
2026年7月〜12月
- 高リスクAI(該当する場合)の本格導入準備を完了する EU AI法の本格適用に合わせた対応を完了させます。
- 住民サービス向上を見据えた新規AI利用を開始する 窓口対応の効率化、情報発信の充実など、住民の利便性向上につながる施策を実行します。
- AI導入効果を測定するKPI体系を整備する 「導入すること」がゴールではなく、効果を継続的に測定・改善する体制を整えます。
- 次年度AI投資計画を公表する 住民や議会に対して、AI活用の方針と投資計画を説明します。
まとめ:2026年は「準備できた組織」と「準備できなかった組織」の分岐点
AI2026年問題の本質は、「データ枯渇」という技術的な問題ではありません。
中小企業と地方自治体にとっての本当の問題は、「導入遅延による競争力喪失」と「拡大するデジタルデバイド」です。
大企業のAI導入率が30%を超える中、中小企業はわずか5%前後。この格差は2026年以降、さらに拡大することが予想されます。
一方で、AIを導入した企業の94%が効果を実感しており、月額数万円から始められるツールも増えています。補助金を活用すれば、初期投資の半分以上をカバーできるケースも少なくありません。
今すぐできることから始めることが、2026年以降の競争力を左右します。
- まずは経営者自身がChatGPT等を試してみる
- 社内のAI利用ポリシー(簡易版)を作成する
- 1つの業務で小さなPoCを実施する
- 補助金の活用可能性を調べる
これらは、特別な専門知識がなくても、今日から始められるアクションです。
マーキュリープロジェクトオフィスからのご提案
私たちマーキュリープロジェクトオフィスは、20年以上にわたり、中小企業のデジタル活用を支援してきました。
AI導入においては、「ChatGPTを導入すれば万能」という誤解を持たれることが多いですが、実際には「自社の業務のどこに、どのようにAIを適用するか」という設計が最も重要です。
私たちは、以下のような支援を提供しています。
生成AI導入支援 業務分析から活用領域の特定、PoC実施、本格導入まで、段階的にサポートします。
回答生成エンジン「Symphony Base」 自社データと生成AIを組み合わせた、カスタムチャットボットの構築を支援します。長野県信濃町役場での導入実績があります。
Salesforce導入・活用支援 埼玉県で唯一のセールスフォース・ドットコム社「地域SMBパートナー」として、CRM導入から経営システム構築まで一括対応します。
補助金申請サポート IT導入補助金をはじめとする各種補助金の情報収集や資料作成をサポートします。
「何から始めればいいか分からない」という段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。
※この記事は、信濃ロボティクスイノベーションズ合同会社の開発するマルチAIアシスタント「secondbrain」を利用して執筆しています。




