AI時代に問われる「二刀流競争力」と1倍速の世界での本番力
脳科学者・茂木健一郎さんが、AI時代における人間の価値について語った動画が本日公開されました。
「生成AIを使いこなす人が、使いこなせない人を駆逐していく」
このフレーズだけを聞くと、AIスキルを磨くことが全てのように思えます。しかし茂木さんが本当に伝えたかったのは、その先にある「1倍速の世界」の重要性でした。
私たちはAIを活用する企業として、この視点を深く共有したいと思います。
1000倍速の時代に、何が起きているのか
論文を読む方法が、ここ数年で劇的に変わりました。
茂木さんは動画の中で、「昔は1つ1つPDFで落として読んでいたものが、今はChatGPTに『この分野の最近3年間の主な論文を持ってきて要約してくれ』と言えば、2、3分で出てくる」と語っています。
これは論文に限った話ではありません。
編集者100人を対象にした調査によると、生成AI活用者の91%が生産性向上を実感しています(株式会社パブリカ、2025年)。
また、キヤノンMJの統合報告書によると、同社では生成AIの活用により月間600時間の業務削減を達成しています(キヤノンMJ統合報告書、2024年)。
1.5倍速や2倍速どころではない。100倍速、1000倍速、時には1万倍速で情報が圧縮される時代が、すでに到来しています。
しかし、1倍速の世界は消えない
茂木さんは動画の中で、興味深い現象を紹介しています。
就職活動において、エントリーシートを書く側も生成AIを使い、読む側も生成AIを使うようになった結果、「AIとAIが出会っていて、何やってんだよ」という状況が生まれているというのです。
そこで何が起きているか。
「この1、2ヶ月で、とにかく早く面接しようという流れになってきている」
茂木さんが実際に採用活動をしている方から直接聞いた話だそうです。文章だけでは本当のことがわからない。だから早く会って、その人を見極めようとしている。
面接は1倍速の世界です。ごまかしが効かない。その人の今までのものが、その場で分かってしまう。
ペーパーテストもそうです。1時間なら1時間、2時間なら2時間の中で、その人がどれだけパフォーマンスできるかを見ている。生成AIによる圧縮はそこにはありません。
映画を劇場で没入して見る体験もそうです。効率よく情報を得るためではなく、その経験自体を楽しみたいから、人は映画館に足を運ぶ。
茂木さんはこう言います。
「1倍速の世界はこれからもずっと重要なんだろうと。それが生きるってことそのものだから。それは生きがいだから」
二刀流競争力という考え方
茂木さんが提唱するのは「二刀流」という整理です。
一方では、10倍速、100倍速、1000倍速、1万倍速の情報圧縮で効率よく知識やスキルを得る。生成AIを使い倒す。
もう一方では、1倍速で今ここの自分に浸って、その経験を味わって楽しんで、そこで勝負する。
この両方が必要だというのです。
デロイトトーマツの調査では、AI時代に求められる人間の能力として「ゴール設定力」「文脈設計力」「質問力」「暗黙知の形式化能力」「戦略的思考」「創造性」「判断力」「コミュニケーション能力」の8つが挙げられています(デロイト トーマツ グループ、2023年)。
AIに任せる部分と、人間が担う部分。その切り分けを自覚的に行い、両方を使いこなせる人が、これからの時代に価値を発揮していくのでしょう。
1倍速の世界で問われる人間力とは
ビジネスパーソンにとって、1倍速の世界は日常のあらゆる場面に存在します。
クライアントへのプレゼンテーション。チームメンバーとのミーティング。上司への報告。取引先との交渉。
これらはすべて、リアルタイムで進行する「本番」です。事前にAIで資料を準備することはできても、その場でのやり取りは1倍速で進んでいきます。
では、1倍速の世界で求められる人間力とは何でしょうか。
対面でしか伝わらないもの
WEB会議と対面会議の比較に関する調査(フリカル、527人対象、2020年)では、対面会議を好む理由として「意思疎通がしやすい」が63%で最も多く挙げられています。また、この調査では「対面派」「WEB派」「どちらともいえない」の割合がほぼ拮抗しており、状況に応じた使い分けが行われている実態が見えてきます。
別の調査(EMEAO!編集部、2025年)では、対面コミュニケーションで得られる情報量の多さ、信頼関係構築の効果が指摘されています。表情、声のトーン、間の取り方といった非言語情報は、オンラインでは伝わりにくい領域です。
デジタルツールが発達した時代だからこそ、対面でしか得られない価値が再認識されているのかもしれません。
EQ(感情知能)の時代へ
ChatGPTのEQスコアは人間の32%程度であるのに対し、IQは99%以上だという研究があります(Six Seconds、2025年)。
AIがIQ的な能力で人間を上回る時代において、EQ(感情知能)の重要性は相対的に高まっていきます。そして重要なのは、EQは後天的に伸ばせる能力だということです。
相手の感情を読み取り、適切に応答する。場の空気を感じ取り、最適なコミュニケーションを選択する。これらは1倍速の世界でしか発揮できない能力であり、AIには代替しにくい領域です。
心理的安全性をつくる力
Googleが効果的なチームの条件を研究した結果、最も重要な要素として挙げられたのが「心理的安全性」でした。
心理的安全性とは、チームメンバーが安心して発言や行動ができる状態のことです。これは制度やルールだけでは作れません。日々のコミュニケーション、表情、声のトーン、反応の仕方といった、1倍速の積み重ねによって醸成されるものです。
ある調査では、管理職層の約76%が部下の心理的安全性を意識してマネジメントを行っていると回答しています(ALL DIFFERENT、2023年)。
これも、AIには担えない人間の仕事です。
即興力と本番力
1倍速の世界には、もう一つ重要な要素があります。それは「即興力」です。
予期せぬ質問への対応。突発的なトラブルへの判断。想定外の展開への適応。
これらは事前に準備できるものではありません。その場で、リアルタイムに、対応しなければならない。
ハーバード・ビジネス・レビューでも、VUCA時代(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高い時代)における即興力の重要性が指摘されています(ハーバード・ビジネス・レビュー、2021年)。
AIは膨大なデータから最適解を導き出すことは得意ですが、「今、この瞬間」の文脈の中で、人間同士の関係性を踏まえた判断を下すことは苦手です。
茂木さんの言葉を借りれば、「どれぐらい考え深い人か、人柄か、1倍速の世界で初めてわかる」のです。
生きがいと経験価値
茂木さんは著書『IKIGAI』が世界35カ国で翻訳・出版されるなど、「生きがい」研究でも知られています(日経ビジネス、2018年)。
動画の中で茂木さんは、映画を劇場で見る体験について「効率よく情報を得ようってんじゃなくて、その経験自体を楽しみたいから」と語っています。
そして、「生きがいってのは生きることの実感なんでね」と続けます。
ビジネスの世界でも、同じことが言えるのではないでしょうか。
AIで効率化できる部分は徹底的に効率化する。しかし、クライアントと信頼関係を築く時間、チームメンバーと対話する時間、自分の成長を実感する時間。これらは1倍速で味わうべき「経験価値」です。
効率だけを追求すれば、確かにタスクは早く終わるかもしれません。しかし、それだけでは「生きがい」は生まれない。人と人との関係の中で価値を生み出すこと。それこそが、AIには代替できない人間の営みなのだと思います。
私たちの考え方
マーキュリープロジェクトオフィスは、20年以上にわたってクリエイティブとテクノロジーの領域で仕事をしてきました。生成AIの活用にも積極的に取り組んでいます。
しかし私たちは、AIを「人間を置き換えるもの」とは考えていません。
茂木さんが言うように、「生成AIをうまく使いこなす人が使いこなせない人を駆逐していく」のは事実かもしれません。しかし、その先にあるのは「AIを使いこなした人間」同士の世界であり、そこでは結局、人間としての力が問われることになります。
1000倍速の効率化と、1倍速の人間らしさ。
この二刀流を使いこなすこと。それが、AI時代を生きるビジネスパーソンに求められる姿勢なのではないでしょうか。
そして私たちは、クライアントの皆さまとの関係においても、この姿勢を大切にしたいと考えています。
具体的には、初回のお打ち合わせでは可能な限り対面でお会いすることを大切にしています。課題やビジョンを直接お聞きし、言葉にならないニュアンスも含めて理解することが、良いアウトプットの出発点だと考えるからです。
AIで効率化できる部分は効率化する。その結果生まれた時間を、クライアントとの対話や、より深い課題理解に充てる。これが私たちの「二刀流」です。
茂木さんは動画の最後に、こう語りかけています。
「今の時点でこう整理しておくと、当分、数十年は、AIとの付き合い方において自信ができるんじゃないかと思います」
私たちもそう思いながら、1倍速の世界の今夜の飲み会に繰り出そうと思っております。
本記事の情報は2026年1月5日時点のものです。
※この記事は、信濃ロボティクスイノベーションズ合同会社の開発するマルチAIアシスタント「secondbrain」を利用して執筆しています。




